化学物質の自律管理移行について思うこと
あり方検討会報告書を踏まえた化学物質の自律管理について、現時点で思っていることをアウトプットしたいと思います。
自律管理移行についてはこれまで10回以上に渡って当HPでも取り上げてきました。産業衛生の分野では今最もHOTな話題の一つでしょう。先の第95回産業衛生学会でも衛生工学関係者のみならず(当該学会ではマイノリティーですが・・・)、産業医、産業保健に従事する方々の中でもこの話題が多く取り上げられていました。
さて、現時点では、先のブログ記事にも書いた通り、自律管理に向けた枠組みの大枠がほぼ決まったと思っています。勿論、まだまだ議論が残っている重要箇所もありますし、今後さらに詰めるべき点は多々あります。
というのは前置きでして・・・、個人的には(個人の意見ですよ)、この話題についての興味が少し薄れてきました。その理由は、大枠が決まってきたからです。
大枠とは公布内容と施行内容のことを指していますが、それらが決まってしまえば、あとは粛々とそれぞれの立場で準備を進めていくしかありません。そうなると、企業人としての私は、やれることをやるということしか無くなる訳です。それはそれで、それなりのボリュームと質を要求される仕事になることは予想しているのですが・・・、これはジョブへの移行になったということなのです。
このジョブを私の所属する組織で達成するにはそれなりのパワーを伴いますし、想像性を発揮することも要求されるでしょう。私に与えられている裁量権の中で何ができるのかを創造したり、妄想したり、実行したりと・・・、その点では面白いのですが、私の中ではジョブになってしまうと、当初の興味レベルに比べ少し薄れてきた感があるのです。個人の意見ですよ、あくまで。
では、当初の興味レベルは何だったかというと、この自律管理の目的や意図を私なりに理解した上で「これは必要な改革だ、さて、どのように法制化するのだろう?私自身は企業人として、またコンサルとしてどんな貢献ができるのだろう?」と思ったことでした。
ただ、もうちょっと前に遡ると、あり方検討会をウォッチしている時には方向性自体に疑問を持っていました(大人の事情により詳細は書きません)。その後、自律管理を法制化しようとした関係者が何を思ってこの方向性を打ち出そうとしているのかに思いを馳せ、乏しいながら持てる知識を活用して、私なりに考えてみたところ、問題はあるものの、概ね方向性としては正しく、今このタイミングでやらなければダメなのだ、と思うに至りました。その背景には私がコンサルになって考え方が変わったことも関係していると思います。
しかし、あり方検討会報告書が出た以降の様々な議論を見て感じたことは、真摯に問題に向き合う部分も見て取れるものの、目的を意識せず多くは何をどうしたらいいの?という手続き論の話題や、如何に手を抜いて楽をするかの中身の無い議論に終始していると感じました。つまり、本来の改革の焦点や目的から外れた方向性に事業者側の多くの興味が向いているように感じられたことです。このようなことは新たな規制の法制化の時には必ず起こることですし、否定するつもりはありません。法令が変わるときの現場の大変さは知っているつもりなので・・・。
ただ、面白いなと思うのは自律管理ということです。自分で考えてやって下さいよ、ということなので、しっかりと自分の頭で考えねばなりません。手続き論や手抜きでは目的を達成できないためダメだとなりますよね。
そして、今後は、この自律管理の取組みは二極化するのではないかと思っています。つまり、できるところとできないところに分かれるということです。できるところは企業体力のあるところになるでしょうし、できないところはそれ以外となるのではと・・・。そして、このできるというのは手続き論としての対応であり、真に理解して対応する、取組むというのとは少し違うようになってしまうのではとも感じています。
このように少し悲観的な見方をしているのですが、自分に対して残念なことは、私はこの自律管理に対して中央で意見を述べたり、あり方を決定したり、それなりの発言権を有する立場になかったことです。このHPで述べていることも結局は外野から(しかも甲子園のラッキーゾーンから、えっラッキーゾーンなんかもうないよって?確かにそうでした・・・)、“か細い声”を出しているに過ぎません。自分に力があれば、裁量権があればできたことかもしれず、それを持ち得ていない実力不足を感じています(この人、立場もわきまえずに何言っているの?と思う方も居られると思いますが、お馬鹿な私なので許して・・・)。
私は労働衛生コンサルタントを志し、実際にコンサルに成れて本当に良かったと思っています。その理由の一つは、世の中の労働衛生問題を解決できる立ち位置に居られるのだという「喜び」です。その意味からするとコンサルとしての私はこの自律管理に真の意味で関与できる余地はたくさんあります。
ですから、この自律管理に対して、コンサルとしての私は依然として興味を持ち続けています。化学物質管理専門家にしても今回新たに出てきた話ではありますが、考え方自体は目新しいものではなく安衛法第80条と基本的には同じだと私は思っています。化学物質管理専門家として大事なことは資格要件云々よりも、真に事業場の問題を解決できる能力を持っているかということです。寄与できなければ意味がありませんし、有資格者であってもできない人は淘汰されます。
この自律管理への方向性はチャンスと捉えるべきです。これまで機能不全だった組織ならば立て直すチャンスですし、これまでの対応が何か形ばかりでいまいちだな~と思っているなら変えるチャンスです。自律管理では手段は問われませんから、ある面呪縛から逃れて、真に良いと思うあり姿を必要なリソースを獲得して実現することでも良いと思います。そのことへの関与の仕方は、単なるジョブの実行者であったり、推進者として想像性を十分発揮したり、専門家として外野から仕事に繋げたいという方も居られ、立場によって様々でしょう。
しかし、決して忘れてはならないのは、この自律管理が、化学的因子によるばく露を減らすための手段であり、その結果として、労働者の衛生環境を守り、快適な職場を作るということです。
ということで、今日はここまで。