眼の放射線防護を考える@医療現場
医療現場の衛生対策には改善の余地がありそう
昨日の記事で放射線防護マネジメントシステムについて紹介しました。その中で医療現場で個人被ばく線量計の着用率が低いことを書きました。
今回は、個人被ばく線量計の着用率の低さの要因、背景、さらにその対策について考えてみたいと思います。
まずは、当然ながら、医療機関も労働安全衛生法の範疇に入るため、総括安全衛生管理者、衛生委員会、衛生管理者など安全衛生組織が必要となります。それらが有効に機能していれば個人被ばく線量計の着用率が低いなんて有り得ないはずです。
ちなみに、私は民間企業で電離放射線の管理を行っています。それなりに放射線従事者もおりますが、個人被ばく線量計の未着用ということはありません。これは私の会社が優れている訳でも何でもなく、民間企業ではごくごく当たり前のことです。
では、何故、医療機関では着用率が低いのでしょうか?
第2回 眼の水晶体の被ばく限度の見直し等に関する検討会の資料7「医療分野における被ばく実態と被ばく低減効果」では、放射線の被ばく低減に防護装具の有効性が示されている一方で、防護装具を使用しない理由が「使用忘れ」や「面倒」が80%を占めている実態が示されています。
つまり、個人被ばく線量計の着用率が低い要因の8割は「使用忘れ」というヒューマンエラーや、「面倒」という放射線被ばくへの認識不足とも思えるものだったのです。
これは非常に残念な結果です。ただ、診療放射線技師が「声掛け」を実施したところ、着用率は100%になったということです。
これが何を意味しているかというと、医療機関には安全文化が乏しいということ、衛生管理者が機能していない実態があるということ、ひいては、衛生管理体制が機能していないことを示しています。
これを改善するにはトップである総括安全衛生管理者の自らの医療機関での職業被ばくを抑える、従事者を守るという強い決意と意識改革が必要です。その上で、衛生管理体制を見直し、放射線防護マネジメントシステムが機能する土台を作ることです。
「声かけ」は簡単な教育であり、リスク低減対策の中の管理的対策とみることもできます。これが機能するなら、従事者の意識改革も徐々に進むでしょう。
また、見逃してはいけないのは、防護装具を使用しない理由の少数意見として「検査に支障をきたすから」が13%あることです。これは個人被ばく線量計を着用していると放射線を発する機器、設備や、患者さんの補助に影響するからという理由でしょう。
このことは、管理的対策にもさらに工夫の余地があるということです。機器、設備や補助に影響するならば、作業動線の工夫で何とかなるかもしれません。
それと「検査に支障をきたすから」の背景には、年々高度化する医療の問題が背景にあると思います。
今回の調査ではIVRという先端技術を用いる循環器内科で特に眼の水晶体の被ばくが高い実態が示されました。つまり、医療の進歩と引き換えに、それに従事する方のハザード対策がなおざりにされていると捉えてもおかしくないと思います。
これを防ぐには、管理的対策よりも上位のリスク低減対策である工学的対策の充実を図る必要性があります。
防護装具や衝立の有効性が示されているので、それらが有効に機能するようなフレキシブルに可動する仕組みや柔軟性を持たせたものを開発できればさらに被ばくを低減できると思いますし、さらに、それらが実使用面でも医療従事者に使い易い、検査に支障はない、と思ってもらえるものでなければなりません。
ということで、簡単ですが、今回は個人被ばく線量計の着用率の低さの要因、背景、さらにその対策について考えてみました。
医療現場の衛生対策には改善の余地がありそうです。そこに労働衛生コンサルタントの介入余地があるかもしれません。