作成日:2021年 5月 22日
更新日:2023年 1月 3日

1.はじめに

 

ここでは、私が体験した令和2年度労働衛生コンサルタント試験における筆記試験の経験に基づき、筆記試験対策を述べています。たった1回の受験経験しかありませんが、それなりに準備して挑み、幸いにして合格できたので、これから受験を考えようとされている方のご参考になると思います。

 

内容は、筆記試験対策として押さえておくべきポイントを説明したいと思います。

 

実際の私の体験は合格体験記に詳しく書いていますのでご参照いただければ幸いです。

 

2.筆記試験を受験するに当たっての予備知識

 

労働衛生工学区分で筆記試験を初めて受験する際に、最低限知っておくべき予備知識をいくつか説明します。受験日、受験資格などの詳細は当該年度の受験案内をご参照いただきたいと思います。

 

①試験科目と筆記試験科目免除の関係
②筆記試験科目免除は受けるべきか?
③専門科目にはある程度の出題傾向がある
④専門科目でどの問題を選択するかにより合否が決まる
⑤受験にあたり必要とされるバックグラウンドは?

 

以下、それぞれについて説明します。

①試験科目と筆記試験科目免除の関係

 

試験区分を労働衛生工学で受験する場合、試験科目の共通科目は「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」(択一式)の2科目となります。また、専門科目は「労働衛生工学」(記述式)です。

 

筆記試験科目免除とは、「科目の免除を受けることができる資格を有する者」が「その保有資格に応じて特定の筆記試験科目の受験を免除申請できる」というシステムです。

 

労働衛生工学区分での主な科目免除は以下のものがあります。

 

・技術士試験合格者で、衛生工学部門に係る第二次試験に合格したもの
➡「労働衛生工学」が免除
・作業環境測定士
➡「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」が免除

 

ここでのポイントは、その制度を利用して「筆記試験科目免除は受けるべきか?」ということになります。それを②で説明します。

 

②筆記試験科目免除は受けるべきか?

 

免除資格を保有されている方は科目免除を受けるべきか否かということを考えてみたいと思います。

 

私の独断と偏見から結論を言いますと「科目免除は受けない方が良い」です。

 

それは令和2年度の筆記試験で私が経験した事例から強烈にそう感じたからです。詳細は合格体験記に記載しておりますのでそちらをご参照いただくとして、ポイントになるのは、「筆記試験の合否基準の観点」「口述試験の合否の観点」「コンサルタントになった後の観点」となります。以下、それぞれの観点から説明します。

 

筆記試験の合否基準の観点

 

筆記試験の合否基準は以下の通りです。

 

「合格基準は、総得点のおおむね60%以上であること。ただし、1科目につき、その満点の40%未満のものがある場合は、不合格となります」

 

例えば、作業環境測定士資格をお持ちの方が「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」を免除した場合には、専門科目の「労働衛生工学」だけで合否基準に達する必要があります。免除しなかった場合には「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」「労働衛生工学」の3科目の合計で合否基準に達すれば良いとなる訳です。

 

どちらも一長一短あります。

 

科目免除を受ければ「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」に費やす勉強時間が節約できて「労働衛生工学」一本に絞って勉強する分、合格率が上がるという考え方があります。

 

一方、免除科目に得意科目があれば、そこで点数のアドバンテージを得ておくことで点数の獲れなかった科目があったとしても合計で合格基準に達することも考えらえます。

 

これは誰しも考えることで、大方の人は前者の科目免除を選ぶと思います(私も当初はその予定でしたが事情があり科目免除を受けませんでした)。

 

ここで実際のデータを基に検証してみたいと思います。と言っても、令和2年度筆記試験の近畿会場だけの筆記試験データとなりますのでご了承下さい(詳細は合格体験記をご参照下さい)。

 

・試験区分/労働衛生工学の筆記試験受験者32名中の筆記試験合格者は4名(合格率13%)
・合格者4名の内訳は、「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」の科目免除者24名中1名のみ合格(合格率4%)
・筆記試験の全科目受験者は私を含めた8名中3名が合格(合格率38%)

 

母数が少ないので少々説得力に欠けるかもしれませんが、科目免除者の合格率4%という低さが際立ちます。合格率が低かったのは、私の推測では「令和2年度は専門科目の労働衛生工学が難しかったため」と結論付けました。これは令和2年度だけのことかもしれませんが、こういうこともあるので、「筆記試験の合否基準の観点」から見ても、科目免除は受けない方が良いと考えています。

 

口述試験の合否の観点

 

科目免除を受けた人の方が、口述試験での合格率が下がる傾向にあります

 

顕著なのは保健衛生区分です。筆記試験全免除者の口述試験合格率は約5割です。一方、保健衛生区分、労働衛生工学区分や労働安全コンサルタント試験での口述試験での筆記試験免除適用を受けていない方の口述試験合格率は大体8割を超えています。この点については筆記試験に合格して口述試験に臨む受験者は過去のデータを見て気づいていると思います。

 

筆記試験免除で口述試験を受験すると言うことは、その分野については「知識があるから免除されている」と見る向きよりも「免除されている分、口述試験ではより厳し目に見られている」ということを裏付けていると思います。「試験合格の手引き」における合格体験記を見ても科目免除を受けられた方には同様な傾向が伺えます。

 

合格率と共に見逃せないこととして、筆記試験で科目免除を受けても、口述試験では「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」の知識がベースにある前提で質問されるということです。ですから、それに耐えうるだけの「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」の知識があれば問題ありませんが、自信が無いのならば、それを補う勉強を口述試験対策としてせねばなりません。

 

誤解を恐れずに言いますと、作業環境測定士試験の「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」の試験問題の難易度は労働衛生コンサルタント試験のそれよりもかなり易しいと思います。

 

つまり、「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」の2科目で科目免除を受けて筆記試験をパスしたとしても、「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」の知識を、筆記試験を合格するレベルまでアップさせておかないと、口述試験でかなり苦しむことを意味します。

 

特に苦労するのは「労働衛生関係法令」です。口述試験では労働衛生関係法令は問われないことになっているので、「そんなん関係ないやん!!」と思われるかもしれません。しかし、私が、実際に口述試験で感じたことは、法令を知らないと質問に答えらないことが多々あったということと、それを見越して口述試験対策でもしっかり「労働衛生関係法令」の勉強をしたのです。

 

そして、事実として、労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」は相当難しいのです。労働衛生工学で筆記試験免除を受けずに全科目受ける人の割合が少ないと思うので、実際に、「労働衛生関係法令」を受けた人も少ないと思われ、この点を実感できる人も少ないと思うのですが・・・。

 

私は第2種作業環境測定士試験の筆記試験に合格しました。しかし、その知識だけでは、労働衛生コンサルタント試験の関係法令の問題は解けませんでした(お馬鹿な私だけかもしれませんが・・・)。また、第1種作業環境測定士試験の筆記試験の「労働衛生関係法令」の問題を解いたこともありますが、労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」よりも相当易しいと感じました。免除資格を持っている方は、試しに労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」の過去問を解いてみて下さい。難しさを実感すると思いますよ(個人的には、作業環境測定士を保有していれば労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」が免除されるというのは相当に甘いと思いますが、あまり強く言い過ぎると反感を買いそうなのでこの程度に留めておきます。すでに言っちゃってますが・・・)。

 

ここまで言うと逆に「労働衛生関係法令」を筆記試験では避けたくなるかもしれませんね。悩ましいところだと思います。

 

コンサルタントになった後の観点

 

これは2つ目の理由の最後にも触れた通り、口述試験のために労働衛生関係法令をしっかり勉強しておくという考え方を、さらにコンサルタントになった後の観点から考えて勉強しておくと考えて下さい。

 

労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」が相当難しいということは、コンサルタントにはそれ相応の法令知識が要求されるということです。

 

私はまだコンサルタントの卵であり、そのために仕事を請け負ったことがないため、説得力に欠けるかもしれません。

 

しかし、口述試験では、コンサルタントになったつもりで試験官をクライアントに見立ててコンサルティングをすることを意識して試験に臨みました。そのためには、しっかりした「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」の知識が必要と考え、筆記試験後にもこれらについて勉強し続けました。これらは、私が近い将来コンサルタントとして仕事をする上で必ずや役立つと確信しています。

 

また将来、労働衛生コンサルタントを仕事に生かそうという方であれば、労働衛生コンサルタント試験に合格することは単なる通過点ということを念頭に置いておくべきと思います。その先にある労働衛生コンサルタントとして真に活躍することを考えれば、急がば回れと考えて、受験勉強の段階で科目免除せずにしっかり勉強することをお勧めします(少々、私の価値観の押し付けもあるかもしれませんが、十分にご一考の価値はあると思いますよ)。

 

なので、ここでも科目免除は受けずにしっかり勉強することをお勧めします。

 

まとめ

 

筆記試験科目免除は受けるべきか否かについて、「筆記試験の合否基準の観点」「口述試験の合否の観点」「コンサルタントになった後の観点」から見た場合のメリット、デメリット、要検討ポイントをまとめてみました。

 

科目免除を受けない

科目免除を受ける

受験科目 「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」「労働衛生工学」 「労働衛生工学」
合否基準 総得点のおおむね60%以上であること。ただし、1科目につき、その満点の40%未満のものがある場合は不合格
メリット ・「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」に得意科目があれば、そこで点数のアドバンテージを得ておくことで、点数の獲れなかった科目があったとしても合計で合格基準に達する可能性がある

・「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」をしっかり勉強しておけば口述試験対策にもなるし、コンサルタントになった後にもその勉強で得た知識が役立つ(勿論、自己研鑽を続けることが大前提)

・口述試験での合格率が科目免除を受ける場合に比べて高い傾向にある(保健衛生の傾向からの分析)

・筆記試験では「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」に費やす勉強時間が節約できて「労働衛生工学」一本に絞って勉強する分、筆記試験の合格率が上がる可能性がある(ただし、このことはデメリットの2点目とトレードオフの関係にあり)

・科目免除する「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」の知識が筆記試験に合格するレベルにあり、それを口述試験まで維持できるなら問題なし

デメリット 筆記試験では3科目の勉強に費やす時間の捻出が必要 ・「労働衛生工学」の試験問題が難しい場合には合否基準に達しない可能性がある

・「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」の知識が筆記試験に合格するレベルにないなら、そのレベルまでアップさせておかないと、口述試験でかなり苦しむことになるため、結果的に、筆記試験後の口述試験勉強で「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」のレベルアップのための勉強時間を確保しないといけない

・口述試験での合格率が科目免除を受けない場合に比べて低い傾向にある(保健衛生の傾向からの分析)

要検討ポイント ・筆記試験の段階で3科目の勉強時間が確保できるか?➡10月の筆記試験までに十分な勉強時間が確保できるなら3科目受験は考慮すべき ・「労働衛生工学」の過去問を見て合格基準に達する自信が持てるか?

・「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」の知識レベルが労働衛生コンサルタント試験でパスできる水準にあるか?➡無いなら、10月の筆記試験受験後から翌1月までの間に、口述試験勉強で「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」の勉強時間が確保できるか?

 

 

③専門科目にはある程度の出題傾向がある

 

労働衛生工学区分で筆記試験を受ける場合、専門科目は労働衛生工学となります。専門科目は記述式で計4問出題されます。問1または問2から1問、問3または問4から1問、計2問を選択して回答用紙に記入することになります。

 

出題傾向としては、問1または問2は「有害作業環境に関する化学的因子によるもの」と「有害作業環境に関する物理的因子によるもの」を問う問題で、問3または問4は局排の圧損計算問題となっています。

 

以下にそれぞれの出題傾向を具体的に見ていきたいと思います。

 

問1、問2の出題傾向

 

「有害作業環境に関する物理的因子によるもの」の出題傾向は、振動と騒音に関する問題が頻出となっています。ここ数年は、振動のみ、騒音のみ、あるいは、振動と騒音を問う問題が出されているので出題傾向は明快です。

一方、「有害作業環境に関する化学的因子によるもの」の出題傾向は、出題傾向がバラエティに富んでいます。

令2:労働衛生対策に関する有害物質等
令元:労働環境における有害物質
H30:職場における有害物質の管理
H29:職場環境における有害要因とその暴露
H28:化学物資等の有害性のリスクアセスメント
H27:ろ過式呼吸用保護具
H26:作業環境に存在する化学物質による健康障害防止のためのリスクアセスメント
H25:リスクアセスメント

 

解説

 

問1または問2は必ずどちらかの問を選択して答える必要があります。「有害作業環境に関する物理的因子によるもの」の出題傾向は、近年、振動と騒音に関する問題が頻出のため、これに絞って勉強をするという方法も有りと思います。しかし、その読みが外れて他の物理的因子を問う問題が出題されないという保証はありません。

 

なぜ、これほどまでに振動と騒音の問題が出続けるのかは不明です。近年の職業性疾病の発生件数からすると異常温度条件による疾病による休業4日以上および死亡者数が圧倒的に多いため、いつかは出題傾向が変わるのではないかと勝手に予想しています。

 

一方、「有害作業環境に関する化学的因子によるもの」の出題傾向はバラエティに富んでいます。バラエティに富んでいるということは出題範囲が広いことを意味し受験勉強では相当な準備を必要とします。振動と騒音の問題に絞って勉強をした場合には、化学的因子の勉強は後回しになりがちです。しかし、口述試験では当然ながら化学的因子に関しての問いが高い確率で出ます。むしろ、労働衛生工学区分では、化学的因子を局排などの工学的対策によって如何に防止するのかが問われます。従って、筆記試験の段階から化学的因子についてもしっかり学習しておく必要があると思います。

 

こういったことからヤマは張らずに満遍なく勉強することが望ましいと思います。

 

そして、当然ながら、最新動向も押さえておく必要があります。安衛法関連法令は順次改訂されており、その根拠となるハザードとそれによる疾病の情報も新たなものが出てきています。さらに、新たな要求基準や考え方が出されていることもあります。これらを踏まえて、従来の知識をアップデートしていく必要があります。

 

問3、問4の出題傾向

 

問3および問4では、局排の圧損計算問題が必ず出題されています。どちらの問も圧損計算を主体としていますが、どちらかは、「❶問題数は少ないが圧損の原理を完全に理解していないと解けない問題」、もう一方は、「❷問題数の多い、局排の圧損計算書の穴埋め問題を主にする問題」という構成になっています。

❶❷には以下のような特徴があります。

 

❶問題数は少ないが圧損の原理を完全に理解していないと解けない問題 ❷問題数の多い、局排の圧損計算書の穴埋め問題を主にする問題
メリット 原理を完璧に理解していれば解ける。問題数が少ないので解くのにさほど時間は使わず、試験時間が余って答え合わせに時間を使える。 ❶に比べると問題の難易度が少し低い。多少計算間違いをしても肝心な部分を間違っていなければ問題数が多いので救われる可能性が高い。
デメリット 問題数が少ないので1問当たりの配点が高いと思われ、1問でも間違ったらダメージが大きい。 「排風量計算➡搬送速度計算➡速度圧計算➡圧損計算➡静圧計算」と順を追っての計算問題のため、最初の方の計算を間違っていたら、その後の回答は全滅する恐れがある。問題数が多いので計算に時間がかかり見直し時間が捻出しにくい。

 

解説

 

問3,4の局排の圧損計算問題の出題傾向が変わることはないと思われます(絶対はありませんが・・・)。上記に示した傾向は、私が受験勉強の際に感じたことです。過去問を何周か繰り返すと受験生の方も同じ傾向があることに気付くと思います。よって、この傾向を押さえておき、本番でどちらの傾向の問題を選択するかをあらかじめ考えておくとよいでしょう。

ちなみに、私は本番で❷の傾向の問題を選択しました。自らデメリットとして分析していた通り、全ての計算問題を解くのに1時間弱要してしまい、時間の余裕はありませんでした。また結果的に筆記試験に合格した事実からすると、メリットで挙げていた点で救いがあったものと推察しています。

 

④専門科目でどの問題を選択するかにより合否が決まる

 

上記③で記載の通り、専門科目は記述式で計4問出題されますが、問1または問2から1問、問3または問4から1問、計2問を選択して回答用紙に記入することになります。

 

つまり、2問のうちどちらの問を選択するかにより筆記試験の合否が決まると言っても過言ではありません。

 

では、選択問題で「問題を選択する」とはどういうことか、もう少し突っ込んで書いてみます。

 

まず、回答用紙には問1~4まで全ての回答欄があります(労働安全衛生コンサルタント会が発行している過去問には回答欄がないためイメージが掴み難いと思いますが、私も受験の時に初めて回答用紙を見ました)。

 

試験開始前に、試験官からの説明で、「回答用紙の回答しない方の問題に×をつけて下さい。仮に4問すべてに回答したとしてもどちらかしか採点しないため、どちらを採点してほしいか〇を付ける、あるいは、×を付けるなどして意思表示してほしい」と言われました。ここで初めてこういうシステムになっているのね、と分かりました。

 

仮に、試験時間に余裕があって選択問題の両方に回答しても、採点はどちらかしかされず、「点数の良い方を採用して下さい」なんて思いは通用しないということです。

 

ということは、より得点の獲れる方の問題を選択すべしとなりますね。しかし、専門科目の試験時間は2時間しかないので、試験開始後早めに判断せざるを得ないということなのです。

 

選択するのに時間を掛け過ぎてしまうと肝心の問題を解く時間が減ってしまう、かといって、時間を掛けなさすぎると選択を誤ってしまい、本当は得意な方の問題を選び損ねてしまう、ということも起きかねません。

 

4問ともに満遍なく答えられるほどの試験準備は現実的に難しいと思いますし、仮にそれができたとしても、得手不得手、得意不得意な分野というのは発生すると思います。

 

この点を見定めるのにもそこそこ時間がかかると思います。かといって、問題文全てに目を通すとなると、それこそ、けっこうな時間を浪費してしまうのです。

 

専門科目の試験時間2時間は正直短いと思います。選択する問題にもよると思いますが、私の場合には2問解くのにやっとだったので、ゆっくり問題を解く余裕はありませんでした。それに見直しの時間も必要です。

 

それと、問1または問2(いずれも有害作業に関する問題)と、問3または問4(いずれも局排の圧損計算問題)とは問題の質が異なります。何と言ったらよいのか、頭の違うところを使っている感覚です。こういう場合、一つの問題に回答した後に、次の問題用に頭を切り替えるのはかなりしんどい作業です。私は事前に2問通しでの回答の練習をしていなかったので、頭が疲れ果ててしまいました(是非、2問通しの回答練習をお勧めします!!)。

 

ここまでの内容でご理解いただけると思いますが、合否に関わる大事な選択をなんと短時間のうちにせねばならないのです。

 

結局、対策としては、上記③を参考に問題の傾向を把握した上で、どの問題を選択するか方針をあらかじめ練っておき、試験開始と同時に短時間でどちらの問題を選択するかを決めることです。目安は5分以内でしょうか。

 

最後に私の体験を言いますね。

 

私の場合は、問1,2からは振動・騒音以外を選択する、問3,4からは上記③でいうところの「❷問題数の多い、局排の圧損計算書の穴埋め問題を主にする問題」を選択するという方針でした。そして、試験開始と同時に最初の5分程度をかけて方針通りの問題を選択しました。

 

具体的には、問2が振動だったので自動的にパスしました。問3は問4よりも原理的なことを問う問題、すなわち、上記③の「❶問題数は少ないが圧損の原理を完全に理解していないと解けない問題」と感じ、問4は圧損計算書の穴埋めだったため、比較的すんなり選択ができました。一応、もう一度問題全体を眺めてその選択が間違いないという確認をしました。ここまでで5分程度要したと思います。

 

しかし、「この問題を選択して正しかったのだろうか、ひょっとしたらもう一方の問題の方が簡単だったのかもしれない・・・」という想いが試験の序盤で何回も頭の中を駆け巡りました。でも、「今からもう一方の問題に戻っても時間の無駄かもしれない。えーい、腹をくくってこのまま進もう!」という心境で以降は問題に集中することにしました。

 

ご参考まで。

 

⑤受験にあたり必要とされるバックグラウンドは?

 

労働衛生コンサルタント試験(労働衛生工学区分)の筆記試験を受験するにあたり必要とされるバックグラウンドについて記載します。なお、ここで言うバックグラウンドとは、学生時代の専攻や、会社等での実務経験を指します。

 

試験区分を労働衛生工学で受験する場合、試験科目の共通科目は「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」(択一式)の2科目となります。また、専門科目は「労働衛生工学」(記述式)です。

 

以下、それぞれの科目について必要とされるバックグラウンドを記載します。

 

まず、共通科目の2科目「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」について必要とされるバックグラウンドは労働衛生に関する実務経験になると思います。それなりの実務経験があれば、それなりに知識が蓄積されていると思いますので、それを有効に生かしつつ、受験のための勉強を重ねることになるかと思います。労働衛生に関する関係法令は、特別衛生規則11本の印象があまりにも大きいため、一見、超複雑に感じますが、どれかの規則になじみがあれば、あとは同じような法律の建付けになっているので案外理解しやすいと思います。労働衛生一般も同様の考え方が成り立つと思います。

 

一方、専門科目の「労働衛生工学」については、局排の設計の実務経験があれば相当に有利かと思います(ただ、そのようなバックグラウンドを持つ方は少ないと思いますが・・・)。次に、局排の届出の実務経験のある方も有利と思います。その他に、一般の化学、化学工学、分析化学、物理化学と言ったバックググラウンドのある方は圧損計算への理解が容易と予想され、多少有利かと思います。

 

「労働衛生工学」で最も重要とされる局排の圧損計算問題では、化学工学や物理化学のバックグラウンドがあるととっつきやすいように思います。私の所感となりますが、圧力という概念は少々とっつきにくいと感じています。私は学生時代に化学工学を学びましたのでそこまで違和感は無かったのですが、このHPでのお勧め参考図書である「新やさしい局排設計教室」(沼野 雄志著、中央労働災害防止協会、定価\4,400)を読んでさっぱり分からない、圧力って何?という場合には、その基礎的な勉強から始めた方がよいかもしれません。

 

問1または問2で問われる「有害作業環境に関する化学的因子によるもの」の問題では、労働衛生に関する実務経験がものを言いそうな気がします。それと、私が受験した令和2年度試験では化学のベース知識が無いと解けない計算問題が出されました(ちょっとびっくりしましたが・・・)。そういった問題が出題されることは少ないと思いますが、もし出題されたら一般の化学や分析化学のバックグラウンドが無いと少々厳しいかもしれません。

 

問1または問2で問われる「有害作業環境に関する物理的因子によるもの」では騒音、振動が問われますが、ここでも労働衛生に関する実務経験がものを言いそうな気がします。

 

解説

 

労働衛生コンサルタント試験(労働衛生工学区分)は、労働衛生に関する最上位の国家試験のため、特定分野のバックグラウンドのみに頼るものではなく、労働衛生の実務経験に根ざした幅広く且つ深い知識が要求されます。ですから、受験試験としてある一定以上の実務経験が要求されるのだと思います。ただ、労働衛生の範囲はとても広いため、特定の分野の実務経験や学問的な知識があっても歯が立たない感じがしておりまして、結局は受験勉強を通じて、それらをカバーしていかねばなりません。ただ、試験でのお助けとして得意分野を選択できる仕組みなので、専門科目「労働衛生工学」(記述式)では問1または2から1問、問3または4から1問を選べばよく、必ずしも全てをカバーする必要はないのです。

 

3.筆記試験対策

 

ここでは筆記試験対策の勉強法を敢えて2パターン記載します。パターン1は最小の労力で臨む方法パターン2は最大の労力で臨む方法です。私のおすすめはパターン2です。

 

なお、あらかじめのお断りですが、いずれの方法で勉強しても合格をお約束できるものではありません。また、受験生のバックグランドや勉強開始時点での労働衛生に関する知識、経験、習熟度で勉強すべきことの範囲や勉強の深さが変わってくると思います。これらのことをご承知おきください。

 

(1)パターン1

仕事が忙しすぎて勉強時間が確保できないので、極力最小の勉強時間、最小の労力で、筆記試験の合格基準さえ超えれば良いという考え方に基づく方法です。

 

①試験問題集の問題を解いて、理解できていない箇所を知る

②理解できていない箇所を参考図書等で勉強する

③試験問題集で理解度を判定する

④上記①~③をひたすら繰り返す

⑤労働衛生に関する最新動向を押さえるため、おすすめ参考図書の「労働衛生のしおり」の最新年度版および前年度版の内容をしっかり把握しておく

おすすめの参考図書

 

・「労働安全コンサルタント労働衛生コンサルタント 試験問題集」(日本労働安全衛生コンサルタント会、定価\4,600)
おすすめポイント:1冊で2年分の過去問及びその解説が記載されています。特に関係法令の解説が秀逸。
考慮ポイント:過去何年分を解くかは考えどころ。私は最終的に過去7年分を揃えました。

 

・「作業環境測定士・労働衛生コンサルタント等資格取得のための労働衛生関係法令の要点の解説」(日本作業環境測定協会、定価\2,200)
おすすめポイント:難解な法令が簡潔に分かりやすく解説されている良著。労働衛生コンサルタント試験の法令の過去問と共に、作業環境測定士試験の法令の過去問もあり、作業環境測定士試験の法令勉強にも使える。
考慮ポイント:法令はこれだけで十分かと言われるとそうとも言えないのが素直な意見。かといって他の参考図書として思いつくものもないため、地道に都度関係法令を見るのがよい。

 

・「新やさしい局排設計教室」(沼野 雄志著、中央労働災害防止協会、定価\4,400)
おすすめポイント:言わずと知れた受験必須図書であり、これ一冊で局排設計は大方は解できる。
考慮ポイント:400頁を超える内容なので、最初から読む時間も惜しいという方は、第6、7、10~15章のみを読んで、過去問を解き、分からない箇所は読み飛ばした章も含めて勉強し直しても良いかもしれません。

 

「労働衛生のしおり」の最新年度版および前年度版(中央労働災害防止協会、定価\725)

おすすめポイント:「基本的対策の勉強」、「職業性疾病の原因となるハザードの理解とその対策」のどちらも網羅的にカバーしており、要点がまとめられている良著。

考慮ポイント:さらに深掘りする際には専門書を当たる方が良い。

 

解説

 

この勉強方法はいわゆる王道の資格試験勉強方法です。なので、ここでは多くの解説は不要と思います。

 

この方法は、共通科目の労働衛生一般では有効と思われます。一方、共通科目の労働衛生関係法、専門科目の労働衛生工学では不十分かもしれません。

 

特に、局排設計の計算問題は、素養の無い方はこの方法では厳しいと思います。素養の有る無しの基準として、参考までに私の事例をご紹介します。私は受験時点で衛生工学衛生管理者の有資格者でした。また、学生時代に化学工学を勉強した経験があります(遥か昔のことですが・・・)。少しは局排の素養があると思っていましたが、参考図書なしでは過去問の局排設計問題は全く解けませんでした。というより、設問の意味がほとんど理解できませんでした。

 

素養の無い場合は、専門書を一読して最低限の知識を得てから上記①~④のサイクルに臨むのが良いでしょう。急がば回れです。

 

また、局排設計の計算問題では、設計書の穴埋め問題に一定のパターンがあります。つまり、「規定されたフード型式による排風量計算➡ダクト内搬送速度計算➡速度圧計算➡圧損計算➡静圧計算」という流れです。この計算パターンに慣れ、それに用いる公式さえ理解でき、出題パターンに慣れればある程度の点数が獲れると思います。

 

(2)パターン2

 

仕事は忙しいけど、口述試験までを見据えて、勉強時間もそれなりに確保して万全の体制で臨みたいという方向けの勉強方法です。

 

①パターン1の方法と同じ

②労働衛生対策の網羅的な勉強を行う

③常に法令条文を参照する癖をつける

 

おすすめの参考図書

 

パターン1のおすすめ参考図書に加え、下記をお勧めします。なお、残念ながら一冊で全てを網羅的、且つ、深く勉強できるような参考図書はありません。網羅的に勉強する参考図書に加えて、個々のハザードについての参考図書が個別に必要になります。

 

「作業環境測定のための労働衛生の知識」(日本作業環境測定協会、定価\2,860)
おすすめポイント:「基本的対策の勉強」がこれ一冊でほぼできます。特に、沼野先生の書かれたパートはとても分かりやすい。
考慮ポイント:各論となる「職業性疾病の原因となるハザードの理解とその対策」はこれだけでは不十分です。なので、個々の専門書に頼る方が賢明と思われます。

 

「労働衛生のしおり 令和2年度」(中央労働災害防止協会、定価\725)
おすすめポイント:「基本的対策の勉強」、「職業性疾病の原因となるハザードの理解とその対策」のどちらも網羅的にカバーしており、要点がまとめられている良著。
考慮ポイント:さらに深掘りする際には専門書を当たる方が良い。

 

解説

 

パターン1の勉強法に加えて②③を実施することをお勧めします。

 

②労働衛生対策の網羅的な勉強とは、おおまかに分けて2種類あります。1つは「基本的対策の勉強」、もう一つは「職業性疾病の原因となるハザードの理解とその対策」について勉強することです。

 

「基本的対策の勉強」は、労働衛生管理体制、作業環境管理、作業管理、健康管理、労働衛生教育、OSHMSの各項目の勉強です。

 

「職業性疾病の原因となるハザードの理解とその対策」は、労働衛生に関わる全てのハザードについて、そのリスク発生状況の洗い出しと、洗い出したリスク発生状況毎のリスク低減措置の把握となります。

 

「基本的対策の勉強」「職業性疾病の原因となるハザードの理解とその対策」の重要性についてご理解いただくために、労働衛生コンサルタントとして、労働衛生問題が発生している事業場の診断・指導を想定して掘り下げ解説したいと思います(これはとても重要なことを書いているつもりなので、何度も読み返されることをお勧めします!)。

 

掘り下げ解説

 

職場巡視等で事業場を訪れた際に、どんなハザードが労働者に対して問題となるかを労働衛生コンサルタントとして把握するには、「職業性疾病の原因となるハザードの理解」の知識が必須となります。

 

例えば、化学物質を取扱う事業場で、且つ、騒音が発生している職場のコンサルティングを依頼されたとします。しかし、化学物質と騒音に関する知識が無かったらどうなるでしょうか?その事業場に潜むハザードと労働者への影響を見過ごすことになりかねませんよね。これでは労働衛生コンサルタントとして失格です。

 

化学物質と騒音というのは非常に単純な例ですが、実際の事業場はもっと複雑で様々なハザードが存在しています。寒冷作業の知識なんて関係ないと思うかもしれませんが、冬の日本は相当寒いのでケアすべきでしょうし、オフィスにも腰痛の原因となる座位姿勢での作業などが多々存在しています。

 

事業場は労働衛生の根幹です。この現場で労働者に及ぼす全てのハザードについてそのリスク発生状況の洗い出しができなければ話になりません。その上で、洗い出したリスク発生状況毎のリスク低減措置を進めていくこととなるのです。このように「職業性疾病の原因となるハザードの理解とその対策」を網羅的に理解しておくのは労働衛生コンサルタントにとって当たり前のことだと思います。

 

つまり、事業場の状況をみて、まずはハザードの把握をしなければならず、そのためにもハザードの種類とその内容の理解が必須となるのです。

 

さらに、「職業性疾病の原因となるハザードの理解とその対策」を推進していく上で、「基本的対策の勉強」としての労働衛生管理体制、作業環境管理、作業管理、健康管理、労働衛生教育、OSHMSの各項目の知識があるのです。これらは、ハザードの把握の後にやるべき評価、改善に当たるものです。

 

これら「職業性疾病の原因となるハザードの理解とその対策」の知識を総動員することで、労働衛生コンサルタントは厚生労働大臣が認めた労働衛生のスペシャリストとして、労働者の安全衛生水準の向上のため、事業場の診断・指導を行うことができるのです。労働衛生コンサルタントとはそのための国家資格(士業)なのです。

 

如何でしょうか。「職業性疾病の原因となるハザードの理解とその対策」の重要性はご理解いただけたでしょうか?なになに「マイナーなハザードの知識は合格してから勉強するのでいいんじゃないの?」という声もあるかもしれません。それも一理あります。しかし、筆記試験でどんなハザードとその対策について問われるか分かりません。さらに、筆記試験のあとに待ち受ける口述試験でも何を聞かれるか分かりませんから然りです。ただ、ここで強調したいのは、試験で問われるから勉強しておくということだけではなく、合格後の先のことを見据えた勉強という視点も筆記試験の準備の段階で意識していただきたいということです。

 

この掘り下げ解説を書いているのはコンサルタント試験に合格して2年後(2023年1月)なのですが、今試験勉強当時を思い返してみても、「職業性疾病の原因となるハザードの理解とその対策」を網羅的に勉強して良かったと思っています。ただ、私はこの勉強を筆記試験時ではなく、口述試験時に行いました。この経験からも、筆記試験時からこの勉強をやっておくことを強くお勧めします。

 

本題に戻りますが、この②の勉強方法に近道は無いと思います。その分、ここでしっかり勉強しておけば、筆記試験後に待ち構える口述試験の勉強の下地が出来上がっていることになります。

 

③の「常に法令条文を参照する癖をつける」は読んで字の如くです。この分野の対象とすべき法令は労働安全衛生法令となり、法律、政令、省令です。法律自体のボリュームが物凄く、さらに対象省令は労働安全衛生規則以外にも特別衛生規則11本など多岐に渡ります。

 

②の勉強を進めていくと必ずその根拠法令は何かを確認する癖をつけておいた方がよいです。コンサルタントの仕事の根拠は法令になるため、このような癖をつけておくと、口述試験が楽になるばかりか、合格後のコンサルタントとしての仕事に必ずや役に立つと思います。

 

(3)私のおすすめ勉強方法は・・・

 

勿論「パターン2」です。労働衛生コンサルタント試験は、勿論、合格することが目標になりますが、合格しさえずれば良いというものではないような気がします

 

その理由は、労働衛生コンサルタントとなるからには、労働衛生の専門家として事に当たらなければならないからです。単に合格だけを目標にしていては、これは達成できないと思います。

 

そうなると、必然的にパターン2が良いとなります。

 

私の経験ですが、筆記試験の段階ではこのことに気づけませんでした。しかし、口述試験の勉強を重ねていくうちにこのような心境に変化していきました。

 

是非頑張って下さい!!